熱く甘く溶かして
 喫茶店を出てから、智絵里は一言も発しなかった。恭介はそんな智絵里に寄り添って、黙って見守るしかなかった。

 家に着いてからも、ソファに寝転がって微動だにしない。

 そりゃそうだよな。今まで智絵里は一人で必死に乗り越えようとしてきた。誰にも言いたくないから、人と関わらず、過去の関係だって断ち切ったのに、それをいきなり証言だなんて……。

 しかも証言をしたことで、智絵里に危険は及ぶのではないのかと心配になる。

 キッチンに立って考えていた恭介は、突然智絵里に後ろから抱きしめられ、はっと我に帰る。

「どうした?」
「……一人だといろいろマイナスに考えちゃいそうだから」
「じゃあさ、一緒にお風呂にでも入る? 二人で入ったら考える暇なんかないかもよ」
「……えっち」
「お前ねぇ……」
「……でも悪くない」
「ったく、素直じゃないなぁ……」
「でもこんな私《《でも》》好きって言ってくれるんでしょ?」

 恭介はくるっと回転すると、智絵里の鼻を怒ったように摘む。

「何言ってんの。こんな智絵里《《だから》》好きなんでしょうが」

 智絵里が嬉しそうに微笑むから、恭介は抑えがきかなくなって、智絵里を抱き上げ浴室へと走る。

 キスをしながら服を脱がす。恭介の手が智絵里の体中を撫で回していく。思わず吐息が漏れ、智絵里はその場に崩れ落ちた。

 乱れる呼吸の中、恭介は智絵里の目をじっと見つめる。

「智絵里……今日はお前のこと、めいっぱい甘やかしていい?」

 この人はなんてことを言うのかしら……恭介の言葉だけで体の芯が震えた。智絵里は恭介の体に腕を回す。

「私が満足出来るくらい甘やかしてくれないと許さないんだから……」
「了解……」

 恭介が智絵里の中に入ってくると、そのぴたりと重なり合う感覚に身体がのけぞる。あぁ、私の中、恭介だけを受け入れられるようになってる。愛し合うことがこんなに気持ちが良くて、幸せな行為だということを、恭介が私に教えてくれた。

「愛してるよ……智絵里……」
「うん……私も……」

 恭介の匂いを胸いっぱいに吸い込み、智絵里は彼が与えてくれる安堵の中に堕ちていった。

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