熱く甘く溶かして
 振り払われバランスを崩した杉山の上を、何人もの人間が背中から馬乗りになるのが見えた。

 智絵里は何が起きたかわからなかったが、その中に早川の姿を見つけ、警察が来たということだけは認識出来た。

 早川は杉山に手錠をかける。

「杉山茂樹、脅迫の現行犯で逮捕する。あんたにはこれから署でたっぷり余罪についても吐いてもらうからな」
「お、俺は何もしていない!」

 すると遠くに飛ばされた杉山のスマホを拾い上げた女性警察官が画像を確認した後、早川に頷いて合図を送る。

「あれはあんたのスマホだよな? ちゃんと証拠も上がってるんだ。覚悟しろよ」

 警察官たちは杉山を連行すると、パトカーに乗せる。その様子をまるで映画のように見ていた智絵里は、ようやく自分の状況について考えられるようになってきた。

 智絵里の体を強く抱きしめる人物の香りに、思わずホッとして力が抜ける。

「恭介?」
「……ごめん……遅くなって……」

 恭介の手が震えている。心配してくれたんだ。そう思うだけで、一人じゃないことに安心感が生まれる。

「怖かった……でも大丈夫だよ……ありがとう……」

 そこへ心配そうな表情をした早川がやってきた。

「畑山、大丈夫か?」
「う、うん……まだちょっと恐怖心が抜けなくて……ははっ、おかしいな、立てないみたい……。でも……これってどういうこと?」
「詳しくは署で話してもいいか? 畑山に聞かなきゃいけないこともあるんだ」
「……うん、わかった」
「篠田もお疲れ」
「あぁ……」

 恭介は智絵里を抱きしめる腕を緩めようとしない。智絵里はその背中を同じように抱きしめる。
 
 耳にまで届くこの心音は、私のものなのか、彼のものなのか……判断がつかなかった。
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