熱く甘く溶かして

「たださ、二人には申し訳ないけど、杉山を現行犯で捕まえられたことには感謝してるんだ。畑山がスマホを見せられて顔色を変えた瞬間、俺たちは確信を持って飛び出すことが出来た。あいつを拘束している間に、余罪についても追及していく」
 
 智絵里は恭介の手からボイスレコーダーを受け取ると、早川に差し出す。

「早川くん、もしこれが証拠になるのなら使って」
「ありがとう、畑山」

 早川はボイスレコーダーを受け取ると、時計を確認する。既に十時を回っていた。

「調書を取りたいんだけど、今日はもう遅いし、明日また来てもらうことって出来るか?」
「うん、その方が助かる」
「あっ……俺は?」
「別にどちらでもいいけど、畑山が心配なら来れば? 番犬は主人のそばにいないと不安だろうしな」
「……わかった」
「……来るの?」
「あ、当たり前だろ! 俺はお前の……婚約者なんだからな……。心配なんだよ……だからそばにいさせて欲しいんだ……」

 今の恭介を見れば、きっといろいろ考え抜いての行動だったと想像はつく。心配性の恭介のことだから、必要以上に混乱して慌てたはずだ。

 もちろん不満はある。でも恭介の気持ちもわからなくはない。

 智絵里はようやく笑顔を見せた。守ってもらうことは気持ちが弱くなる。でも一人じゃない、味方がいる。こんな弱みなら持ってもいいのかもしれない。
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