熱く甘く溶かして
* * * *

 日比野は隣で黙々と業務をこなす智絵里を横目で見る。背が高く、少しクセのある黒髪、細身の体にピタリとしたスカートとブラウスを合わせている。同性から見てもキレイな子だった。

 しかも男性を受け付けず、ピシッと断る姿が凛々しいと女性受けも良い。

 ただ誰にも言っていないことがある。その容姿から受付に抜擢された智絵里だが、実は男性が苦手なのだ。だから日比野が男性の来客の担当を引き受けていた。

 深く話を聞いたわけではないが、話すことは出来ても、触れることは出来ないという。名刺をもらったり、用紙の記入などは怖くてできないということで、今のようなスタンスになったのだ。

 ただ……日比野は今日のことを思い出していた。松尾さんの後輩の子、あの子が触っても智絵里は怖がっていなかった。知り合いみたいだったし、それが理由なのかしら。

 いかにも真面目な社会人という風貌に加え、眼鏡が知的な印象を与えた。いつも松尾ばかり見ていたから、あんな子もいるんだと驚く。

「今日来た子って、もしかして元カレとか?」
「ち、違いますよ! 高校の時の同級生です!」
「ふーん……まさかだけど、智絵里ちゃんのその体質の原因とかじゃないよね?」
「まさか! ……というか逆にいつも助けてくれてたんです。なのに私が逃げ出して……。だからちょっと負い目があるというか」

 智絵里は寂しそうに笑う。

「なんかお母さんみたいな奴なんです。うざったいくらいに構ってくるみたいな」

 その時に日比野のスマホが鳴る。

「智絵里ちゃん、ちょっと出てきていい?」
「どうぞ」

 日比野は休憩室に入ると電話に出る。

「もしもし」
『日比野ちゃん? 今日はありがとうございましたー』
「いえいえ、こちらこそ。どうかしました?」
『実はちょっと相談があってさ〜。実は……』

< 9 / 111 >

この作品をシェア

pagetop