友達、時々 他人
 遅い朝ご飯を食べた後、私は手持ち無沙汰でソファに座っていた。

 いつものことだけれど、龍也は私をとことん甘やかす。食事の支度に片付け、掃除をしてくれて、私は仕事をしているかテレビを見ているか。

 今日も、押しかけたのは私なのだから、せめて後片付けくらいはしようと思ったのに、させてもらえなかった。



 洗濯でもするかな……。



 私は食器を洗う龍也に気づかれないように、ひっそりと寝室に行き、シーツを剥いだ。

 私の部屋に泊まった時、龍也は必ずシーツを洗濯して帰る。

「何やってんだよ!」

 急に背後で大きな声を出されて、ビックリした。

 振り向くと、龍也が眉間に皺を寄せて立っていた。

「洗濯しようかと思って」

「いいよ、しなくて」

 珍しく龍也がムキになって、私からシーツを奪った。

「なに? どうしたの?」

「別に。あきらはこんなことしなくていいんだよ」

「何でよ」

「何でも! ほら、着替えてどっか行こうぜ」

 龍也は丸まったままのシーツをベッドの上に置き、私の手を引いて寝室を出た。

「お前、今日は暇だろ? 天気いいし、たまには出かけようぜ」

 セフレになってから、龍也とは家でしか会っていない。そういうルールだと、龍也だってわかっているから。

 だから、出かけようなんて言われて、驚いた。

「え、なん――」

 ポーン、と高めの機械音が聞こえた。

 私の、メッセージ受信音。

 私はソファに置いていたスマホを手に取った。



 え――――。



 ポップアップを見て、身体が凍った。

「あきら?」

 恐る恐るポップアップをタップすると、パスコードを求められた。入力する。ロックが解除され、メッセージのアプリが開いた。

『会いたい』

 たった一言に、ドクンと心臓が大きく跳ねて、止まった。一瞬だけ。



 なんで……。



「あきら? どうした?」

 無意識に、本当に無意識に、スマホを伏せた。隠すにしたって、あからさま過ぎる。

 龍也が、ビックリした顔をしている。

「あ、ごめ――」

「どうした?」

「なんでもな――」

「――んなわけねーだろ」

「え?」

 龍也の大きな手が、私の頬に触れた。

「なんでもなくて、こんな泣きそうな顔になるかよ」



 泣きそう……?



 動揺しただけだ。

 勇太と別れて何年経ったと思ってる。

 勇太と別れた後も恋人はいたし、龍也とセックスもしている。

 勇太に傷つけられた傷なんて、綺麗に消えた。私のお腹に残る傷は、勇太には関係ない。

「あきら」

 私は龍也の手を払い除けた。

 代わりに、龍也が私の手からスマホを奪った。

「勇太……って――」

 昨夜と同じ、怖い顔。 

「なんなんだよ、今更!」と、龍也がスマホに向かって怒鳴った。

「行かせないからな!」

 顔を上げて、私に言った。

「絶対、行かせないからな!!」

 龍也の熱に相反して、私は急速に冷静さを取り戻した。

 いつも、そう。

 龍也が怒ってくれるから、私は壊れずにいられる。

「龍也」

 泣きそうなのは、龍也の方。



 どうしてこの人は――。


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