友達、時々 他人

 はぁ、と息を吐いて、龍也が私の肩を抱き寄せた。勢い余って、私はドンッと彼の胸にぶつかった。

「『友達』にも止める権利はあるだろ」

 龍也の両腕が、しっかりと私の腰を抱いた。痛いくらいの力で。

「千尋や大和さんたちだって、あきらがあいつにされたことを知ったら、同じことをするはずだ」

 龍也の鼓動の速さに、驚いた。

「……会わないわよ」

 鼓動が、速度を落とす。

「どうして、私が会うと思うのよ」

 更に速度を落とし、じっくり耳を傾けなければ聞こえないほど静かになった。

「新しいパソコン、見に行きたいんだけど」

 ギュッと抱き締められ、手放された。

「車出すよ。着替えに寄るだろ?」

 ルールが、壊れかけている。

 龍也がそれを望んでいることは、わかっている。

 けれど、きっと、私はルールを捨てきれない。



 龍也のことが、好きだから――。




 四年前。

 私は子宮を摘出した。

 理由は、子宮内膜症でありながら、子宮外妊娠したこと。

 私は、自分が子宮内膜症だと知らなかった。

 大学を卒業した頃から、生理不順で、生理痛も酷かった。けれど、市販の鎮痛剤で耐えていた。

 健康診断で『要経過観察』とか『要再検査』と言われたことがあったけれど、忙しさで忘れていた。

 仕事にも慣れて、勇太とも結婚の話をするようになった頃、私は激しい腹痛で病院に駆け込んだ。

 何やら手術の説明を受けた記憶は、ある。なんとなく、だけれど。

 近しい家族の名前を聞かれて、母親の名前と自宅の電話番号を告げた記憶も、ある。夢でなければ。



 そして、目が覚めた時、全てが終わっていた――。



 十七日後に退院し、母親の反対に耳を貸さずに自分のマンションに帰った。

 入院中、仕事を理由に勇太を避けた。

 子供のことを知れば、勇太は悲しむ。

 どうせ産んであげられなかった子。

 勇太には知らせなかった。

 退院して三日後、突然龍也が訪ねて来た。

 入院中の私を見かけ、心配してくれていたと言って。

 入院の理由なんかは聞かれなかったし、話さなかった。OLCのみんなには言わないで欲しいとも頼んだ。

 その日から、龍也は私の家に来ては家事をするようになった。

 退院して二週間後。

 職場復帰を決めた私は、勇太に会いに行った。

 久し振りに会った勇太は、どこかよそよそしかったけれど、私は全てを話した。子供のこと以外。

 勇太は、何も言わずに抱き締めてくれた。

 それが、彼の優しさだと思った。思いたかった。思い込もうとした。



 けれど――。



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