友達、時々 他人
「鶴本くんに言われたの?」
「言われた……というか……」
「もうっ! ハッキリ言っちゃいなさい」
千尋の一声に、麻衣は覚悟を決めたよう。
「鶴本くんが……私の匂いのついたものがあったら、いい夢見れそうだって……言ってた……か……ら……」
「例えば?」
「え?」
「鶴本くんに麻衣の服が欲しいって言われたの?」
麻衣が首を振る。
「じゃあ、なに?」と、千尋の猛攻は止まらない。
「シー……――」
「なに?」
「シーツ!」
「はっ!? 麻衣のシーツが欲しいって言ったの? そんなん、使い道は――」
「千尋! 声がデカい!」
そばにいた店員さんにジロリと見られた。他の客には聞こえてなくて良かった。
「一昨日、鶴本くん家に泊まったの。シてないよ!? ――けど、シーツは洗っちゃダメだって言われて――」
「使うから?」
「――じゃなくて!」
「ああ。『いい夢』を見れそうだから、だっけ?」
麻衣が頷く。
私は、言葉がなかった。
なぜなら、憶えがあるから。
私が泊まった翌日、龍也もシーツを洗うのを拒んだ。ムキになって。
まさか、そういうことの為だったの――?
急に、恥ずかしくなった。
散々セックスしているくせに、龍也が一人の時に、私を想って自分を慰めているのだと思うと、恥ずかしくて堪らなくなった。
いや、でも、そうとは限らない。
単に、洗濯なんて面倒なことをさせまいとしただけかもしれない。
きっと、そうだ。
そう思いたいのに、頭の中では、龍也があのシーツを抱いてシてる姿を想像してしまう。
これじゃ、私の方が変態じゃない――!
「まあ、確かに『いい夢』だよね」
「そうは言うけど!」と、辛辣な物言いの千尋に、麻衣が反撃を始めた。
「千尋はないの? 寂しい時とか、好きな人の服を抱き締めて眠ったりしちゃうこと!」
「……」
千尋が黙る。
あるんだ……。
「試してみる価値はあるかも……ね?」
千尋は、不倫相手に本気になりつつあるのだと思う。
こんなに長く続いた相手はいない。
いつもは、本当に慰めるだけの一晩限り。
なのに、今回は一年は続いている。
「とりあえず、やってみよう! さなえ」
「けど、反応なかったら?」
「それは、その時に考えよ? 美容室に行ってさっぱりしてさ、普段着てるパーカーとかカーディガンとか、うっかり忘れちゃったみたいに置いとくの。次の日にはわかるじゃない? 大和がそれに触れたのか」と、麻衣が言った。
「それか、『パーカー置き忘れた』とか言って、大和の部屋に行っちゃえば? で、くっだらない話でもしてさ」と、私。
「そうそう」と、千尋が頷く。
「ま、とりあえず! 美容室行って、さっぱりしよ。それだけで、気分も変わるよ」
三時間後。
私たちの作戦は、早くも半分が成功した。
あきらが送ったメッセージに既読が付くや否や、有り得ない速さで大和さんがさなえを迎えに来た。
案外、忘年会では二人目報告とかあったり!?
きっと、麻衣と千尋もそう思ったはず。
車に乗り込むさなえは、嬉しそうだった。
車を見送った私たち三人は、一仕事を終えた安堵と達成感でいっぱいだった。
何となく、三人してスマホを見て、それから、解散した。