友達、時々 他人

 温かいうどんを作り、あきらと二人で食べた。

 うどんをすすりながら、あきらは泣いた。食べ終わっても涙は止まらず、俺は彼女を抱き締めた。

 あきらが泣き疲れて眠っても、抱き締めていた。

 翌朝。

 あきらが全てを話してくれた。

 妊娠の事、病気の事、手術の事。そして、勇太と別れたこと。

 生まれて初めて、本気で、殺意を持った。

 あの時、あきらを抱き締めていなかったら、勇太を殺しに行っていただろう。

 その日から、俺は仕事帰りにあきらの家に行き、一緒に食事をしたり、出来ない時は電話をした。とにかく、あきらが一人で不安や悲嘆にくれるなんてさせたくなかった。

 一か月ほどして、あきらが髪を切った。

 腰まであった髪を、バッサリとショートカットに。

「すげー似合うな」

 俺がそう言うと、あきらが笑った。

 数か月振りに見た、あきらの笑顔。嬉しかった。

 諦められないと思った。

「勇太に彼女が出来たんだって」

「は――?」

「それ聞いたら、勇太が好きだからって伸ばしてた髪が煩わしくなっちゃって……」

 無理に笑うあきらは、今にも泣きそうだった。

 もう、泣いて欲しくなかった。

 勇太(あんな男)の事なんか、さっさと忘れさせたかった。

 それはこじつけかもしれない。

 でも、そう思ったのは確か。

 とにかく、俺は、あきらにキスをした。

 驚いて目を見開く彼女の気持ちは置き去りにして、何度もキスをした。無理やり唇をこじ開けて舌をねじ込み、勇太のことなんか考える隙も与えないほど激しいキスをした。

 今となったら、あきらの気持ちを無視してあんなことをして、嫌われていたらどうしたんだと思うけれど、あの時は無我夢中だった。

 唇がヒリヒリするほどキスをして、抱き合って眠った。

 俺はあきらの家に通うのも、キスをするのもやめなかった。あきらも嫌がらなかった。

 セックスを求めたのは、あきらだった。

 キスして抱き合う度に、俺が反応していたのは知っていたろうから、許されたら飛びつくのはわかっていたと思う。

「セックスしても、恋人にはなれない」

 あきらはそう言ったけど、俺は気にしなかった。

 一緒にいて、身体を重ねていれば、いつか気持ちも許してくれると思ったから。

 俺への罪悪感からか、あきらは恋愛に積極的になった。投げやりにも見えたけれど、俺にあきらを手放すという選択肢はなかったから、彼女の決めたルールに従った。

『どちらかに恋人がいる間は、他人』

 俺に期待を持たせたくないようだったから、彼女がいると嘘をついていた時期もあった。

 あきらが他の男と付き合っているのは嫌だったけれど、誰と付き合っても長くは続かなかったし、別れる度に俺が押しかけるのを嫌がるようでもなかった。

 そんな不毛な関係も四年が過ぎ、俺は恋人がいる振りをするのにも疲れていた。
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