友達、時々 他人
「龍也とも、ちゃんと向き合いなよ? 喧嘩別れなんてしていい相手じゃないでしょ」
「……わかってる」
わかっている。
ただ、今は距離置くべきだと思う。
龍也もそう思うから、この一週間連絡がないんだと思うし。
互いの立場や描く将来を、冷静に考える必要がある。それには、離れているべきだ。
会えば、離れがたくなってしまう。
触れたくなってしまう。
触れて欲しくなってしまう。
「で? 千尋の話は?」
「ん?」
「私の話ばっかはずるいでしょ」
千尋がキュッと口を結び、立ち上がると、冷蔵庫から缶を出した。私のも一緒に。
飲み始めて一時間で、千尋は五本目、私は四本目だった。
「――に会った」
「え?」
いきなりボソッと言い、すぐにポテトチップスを口に入れたから、聞き取れなかった。
「奥さんに会ったの」
奥さん……?
誰のかと一瞬考えて、わかったと同時に口がポカンと開いてしまった。
「マジで――?」
「マジで」
不倫相手の奥さんと会うなんて、修羅場の定番。マズいなんてもんじゃない。
「あ! 私に会いに来たわけじゃないよ? 会社に来た時に、たまたま私が取り次いだの」
「いやいや。だからいいってわけじゃないでしょ」
「まぁ……。そうなんだけど?」と言って、千尋はチーズの箱を開けた。
千尋の細い体のどこに蓄えられているのかと不思議なくらい、よく食べている。相当、自棄になっている。
「千尋の相手って、別居して長いって言ってなかったっけ?」
「うん。もう一年半は別居してるけど、奥さんが離婚に応じないみたい」
「それって、千尋が原因で離婚しようとしてるの?」
「違う、違う。付き合う前から別居してて、奥さんが離婚してくれないって弱ってるところにつけ込んだ感じ?」
「つけ込んだ……って、千尋から誘ったの?」
「そういうことになるかな」
さらっと言ったけれど、千尋の男関係についてじっくりと話したことはなかった。
「千尋って、どうして不倫ばっか? 結婚に興味なくたって、結婚してない男と付き合えないわけじゃないでしょ」
「んー……。私さ、弱ってる男に弱いんだよね。家庭が上手くいってなくて、弱ってる男を見ると、つい慰めたくなっちゃうんだよねぇ。で、私と寝た後に、吹っ切れた顔をされると、満足なのよ。なんか……いいことをした気分?」
「……」
ハッキリ言って、わからない。
母性本能のようなものだろうか?
ある意味、利用されているようにも思える。
「千尋って、ダメ男が好きなの?」
「あーーー、うん。そうかも。私自身もダメダメだからかね。汚れてるから、真っ当な男とは付き合えないのかも」と言うと、千尋がクスクス笑い出した。
「私たちみんな、変な恋愛ばっかだね」
「え?」