絶対的恋愛境界線〜当て馬だってハピエン希望です!〜
◇ ◇ ◇ ◇

 信久はゆっくりとした足取りでショッピングモールに向かう。この辺りは徳香との記憶で溢れていた。

 気に入ってた場所だけど、ずっとここにいるのは辛いから、そろそろ引っ越しを考えてもいいかもしれない。

 重い足取りでエスカレーターを昇り切ると、映画館の前に立つ徳香の姿が目に入った。カーキ色のコートに白いマフラーを巻いている横顔に、思わず呼吸を忘れそうになる。

 やっぱりいたーーそう思っても、不安が大きくてそれ以上踏み出すことが出来ない。徳香が言おうとしている言葉を、ちゃんと受け止められるか自信がなかった。

 その時徳香がパッとこちらを向き、信久を見つけると嬉しそうに微笑んだ。

 信久が動けずにいると、徳香の方から近寄ってくる。そして信久のコートの袖口を掴むと、ホッとしたように笑いかける。

「良かった。来てくれた……」
「だ、だって……あんなメッセージを見たら気になるじゃないか……」
「まぁそれが狙いだったけどね。信久ってば私のメッセージを全部無視するんだもん」
「それは……」

 パッと顔を逸らした信久は、唇を噛み締め、なるべく徳香の方を見ないようにした。

 徳香は信久の顔を両手で掴むと、グイッと引き寄せ自分の方へ向ける。その時の徳香の顔を見て、信久はギョッとした。

「の、徳香……もしかして怒ってる……?」

 眉根を寄せ、唇を一文字にひき、目が座っている。こんな徳香を信久は見たことがなかった。

「えぇ、怒ってますとも! 大体信久がやってることは意味がわかんないのよ!」
「えっ……?」
「だってそうじゃない。信久は『好き』だって言ってくれたけど、『付き合って』とは言わなかったでしょ? それに私の気持ちを変えるって豪語したのに、返事をするタイミングはくれなかった」

 徳香の表情が徐々に悲しみを帯びていく。そっと手を離したかと思うと、信久の胸に抱きついてきた。
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