絶対的恋愛境界線〜当て馬だってハピエン希望です!〜
気付かれないって辛い
 今日はクラスの女児と、鉄棒をする約束をしていたため、朝の活動が終わるとすぐに園庭に出て行く。

 今年の徳香の受け持ちのクラスは年長だった。年少組のお世話やお泊まり保育を経て、子どもたちは少しずつ成長している。

 今は来月の運動会に向けて、子どもたち自身が種目や係を決めて練習に励んでいるところだ。

 あと半年でこの子たちを送り出すだなんて、少し寂しい気もする。でも今はたくさん幼稚園生活を楽しんでほしいし、小学校でも頑張れるくらい逞しくなってほしい。

 初めて受け持った年長児との生活を胸に刻んでいた。

 下駄箱で靴に履き替えてから園庭に出ると、女児が逆上がりの練習をしている。徳香は他の子たちがどこで遊んでいるのかを確認しながら鉄棒に向かった。

「お待たせ!」
「先生! やっぱりまだ出来な〜い……足は上に上がるんだよ。でもくるって回らないの」
「じゃあ先生が足を引っ張るから、ゆいちゃんはまず腕にぎゅっと力を入れてみて」
「うん、わかった!」

 ゆいが足を上げるのと同時に、徳香が足を引っ張る。するとキレイに回転をした。

「出来た!」
「うん、すごくキレイに回れたね! もう少し練習してみよう。そうしたら一人でも出来るようになるよ!」

 ゆいは大きく頷き、何度も鉄棒に向かっていく。その時、縄跳びを持った男児がやってきた。

「先生、数えて! いくよ!」
「えっ! わ、わかった! 1、2、3……」

 鉄棒を手伝いながら縄跳びを数えていると、今度は年少組の女の子が転んで泣き出す。

「ゆいちゃん、ちょっと一人でやっててくれる?」

 そして縄跳びの回数を音を聞きながら心の中で数え、転んだこのそばに駆け寄る。

「大丈夫だった? あっ、でも転んだ時にちゃんと手がつけたんだね! お膝も洋服さんが守ってくれたから怪我しなかった!」

 女の子は立ち上がると、再び元気よく駆け出していく。その途端、縄跳びが止まる音がする。

「先生! 何回だった⁈」
「89回! 昨日より増えてる! 頑張ったね!」
「まぁ家でも練習したし」

 得意そうに話す男児を褒めてから、徳香は鉄棒へと戻っていく。

「ごめんねー。さっ、続きやろうか」

 するとゆいは口を尖らせて鉄棒を握っている。

「家に鉄棒があったらもっと練習出来て、すぐに逆上がりだって出来るようになるのになぁ」

 きっと縄跳びの話を聞いていたのだろう。でもそんなゆいが徳香には眩しく見えた。

「頑張ろうっていう気持ちが大事なんだよ。練習したら、それだけゆいちゃんの力になるし、出来た時にはやり方を教えてあげられるかもしれない。すぐに出来たら、逆にやり方がわからないかもしれないよ」
「うん、わかった。じゃあ先生、また手伝ってくれる?」
「もちろん!」

 出来るようになるまでの過程だって大事なこと。これって恋も同じよね……。

 そう思った時、今度は近くでケンカが始まり、徳香は慌てて走り出した。
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