お見合い婚にも初夜は必要ですか?【コミック追加エピソード】
翌週月曜、私は兆くんに社用メールから朗読劇の感想を送った。アーティストである彼にリスペクトを伝えるのは大事だし、高晴さんに断った上でのメールだ。
CM撮影後に兆くんからメールをもらって、朗読劇に行くまで何度かやりとりはした。好きな作品なんかも伝えた。だけど、高晴さんが嫌がるならこういうメールもしない方がいい。いや、もうする機会もないとは思うんだけどね。お互い仕事相手なんだし。

【先日はありがとうございました!】

兆くんからはその日の夕方にメッセージが届いた。

【初めての朗読劇、すごく緊張して挑んだんですが、榊さんのお言葉で「やってよかったな」と思えました】

明るいメッセージ。こんなふうに仕事関係者に礼を尽くせるなんて良い子だなと改めて思う。しかし、メールの文面のトーンが少し変わる。

【本当は少しだけ、下心があって朗読劇にご招待しました。榊さん、可愛いなあと思っていたので(薬指のリングには気づかなかったんです。すみません)】

その一文に私はびくんと身体を揺らした。
ううううう嘘、あの兆くんが? 私を?
驚き過ぎて、頭が混乱する。

【僕の出演作を端役の頃から覚えていてくださったこともすごく嬉しくて、少しだけ期待してしまいました】

兆くんが私を女性として見ていたなんて嘘でしょう? 独身だったら口説いていたってこと?
推しに好意を持たれていたって、あり得ない奇跡では?

【ですが、朗読劇でご夫婦の姿を見てすっぱり諦めましたのでご安心ください。素敵なご主人ですね。とても勝てないなあと思ってしまいました。ずっとファンでいてくださった榊さんに失礼なことをせずに済み、今はホッとしてます。ご主人、榊さんを守ろうとするような態度がとても格好良かったです。おふたり、お似合いでした。僕に祈られるまでもないでしょうが、どうかお幸せに】

メールの画面を閉じ、私はふーと深く息をついた。
< 26 / 40 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop