お見合い婚にも初夜は必要ですか?【コミック追加エピソード】
「高晴さーん」

水槽を眺めていると、後ろから声をかけられた。振り向けば、カフェのテラス席に俺の妻がいた。
今日の雫は、クセのある柔らかい髪をおだんごにまとめ、ジーンズにフレンチスリーブのカットソーというラフな休日スタイルだ。足元はヒールもついていないぺったんこのサンダル。職場にいる時は、レースのブラウスやスカートでもう少し女性らしい服装をしている。俺はどっちの雫も好きだ。

「ごめんねぇ。先にお茶してたんだ」

そういう雫の目の前には綺麗に飾り付けられたパンケーキ。その中央に鎮座する食べられるプレートには、雫イチオシのアニメのキャラクターが描かれていた。

「水族館でデートって……こういうわけだったんだね」
「へへへ、ちょうどコラボやってるから~。カフェでコラボメニュー食べられるし、館内のスタンプラリーを回ると、ここでしか手に入らないステッカーをもらえるんだよ」

写真撮影してSNSにアップするつもりなのだろう。そして彼女の仲間たちがそれにいいねを押すのだろう。想像がつく。
俺の奥さんはちょっとオタクだ。アニメや漫画をこよなく愛し、グッズやブルーレイディスクを買い漁り、好きなキャラクターが一般企業とコラボレーションすればフットワーク軽くどこへでも出かけて行く。

俺個人に偏見はないし、彼女の趣味に一切口を挟む気はない。強いて言うなら、アニメを見ているときにイチャイチャしようとして叱られたことが何回かあることと、推しキャラクターへの愛が深すぎて時々負けているような不甲斐ない気持ちになるくらいか……。

「それを食べて夕飯が入る?」
「たぶん。高晴さんも食べる?」

パンケーキはかなりボリュームがある。これは手伝った方がよさそうだ、と俺はシェア用の皿とフォークを取りに店内に入った。


パンケーキを食べ終え、彼女たっての希望でスタンプラリーをすることとなった。館内数か所に設置されているキャラクターイラストのスタンプを台紙に押印して歩く。
見れば、同じくスタンプにはしゃぐ女子グループが何組もいるので、アニメコラボの営業力はかなりあるのだなと納得してしまう。うちの奥さんも嬉しそうだ。
< 38 / 40 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop