お見合い婚にも初夜は必要ですか?【コミック追加エピソード】
そして、俺は平日のなんでもない夜に雫と水族館デートしていることが嬉しい。交際期間のなかった俺たちだ。思い出はひとつでも多く作りたい。

「エイ、でっかいねぇ。マンタがいないのが残念」

大水槽に張り付いて、雫は魚を追っている。アニメコラボだけじゃなく、ちゃんと水族館を楽しんでいる雫が好ましい。

「マンタってオニイトマキエイのことだけを指すんだよね。海外でマンタの群れを見れるダイビングポイントあるんだって」
「見たい? 雫が行きたいなら行くよ」

軽く言うけれど、俺は本気だ。雫が望むならどこへでも連れて行ってあげたい。

「ほんと? 高晴さん、綿密な計画たててくれそう。そういうの得意だよね」
「不測の事態に弱い方だから何事も計画的にしてるんだ。まずは国内で、ダイビングの経験を積まなければならないね」

俺の真面目くさった提案に雫がおかしそうに笑う。そこまで具体的なプランは雫の中にはない様子だ。

「ダイビングか~」

雫は言葉を切って、ふっと妙に優しく微笑んだ。

「でも、当分はいい。……マンタを見に行くのはもうちょっと先で」

思った反応と違って、意外だった。雫にしてはノリが悪い……ような気がする。気のせいかもしれないけれど。


館内をぐるりと周り、スタンプラリーをすべてこなした。最後のスタンプは屋外のペンギン水槽の前だ。押印を終えると、雫が満足そうに台紙を眺める。これを持っていけば、出口で限定ステッカーをもらえるそうだ。
閉館まで間があるので、もう少しだけと雫とペンギン水槽を眺めた。ペンギンが泳ぐところを下から眺められるのが売りなのだが、先ほどのアザラシ同様、ペンギンたちは泳いでいない。隣接した岩場の展示スペースにまとまっているから、そろそろ飼育室に戻る時刻なのかもしれない。

すると、一羽のペンギンがすいーっと目の前を泳ぎ、通り過ぎた。まるで単独ショーのように空中の水槽を優雅に泳ぎ回る。

「サービス精神旺盛なペンギンだね」
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