もっとも苦手な彼と一夜を共にしたならば
メタル眼鏡の奥から驚いたように私を見ているのは、同期の神園さんだった。

「泣いてる……のか?」

「えっ、あっ」

急いで目尻を拭い、誤魔化そうと努力をする。
一番見られたくない相手に見られた。
背も高くて顔もいいせいか、軽い彼が私は苦手だった。

「なんでもない、です」

顔を見られたくなくて地面に視線を落とし、足早にその場を離れようとした、が。

「待てよ!」

腕を取られ、引き留められた。

「は、離して!」

「泣いてる女、ひとりになんかできないだろ」

引き剥がそうとするが、離れない。
だんだんと今の気持ちと同じように虚しくなってきて、そのうち止まっていた。

「とりあえず、どっか入ろう」

おとなしく手を引かれて歩く。
もう、嫌になっちゃったな。
神園さんなら、好きでもない私を抱いてくれるかな。
それで――全部、忘れたい。

「どこがいいか」

「……ホテル」

私の口から出た言葉を聞いて、彼が足を止める。

「……本気?」

彼の声は少し、驚いているように聞こえた。
それに、黙って頷く。

「……わかった」

次はなぜか、怒っているように聞こえたのは気のせいだろうか。
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