秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
 都心から少し離れたところに借りたアパートは、若干古ぼけていた。けれど治安もそれほど悪くなく、女ひとりでも安心して住めるだろうと勧められて決めた部屋だ。角部屋だったのも気に入っている。

 実家に頼るつもりは毛頭なく、少々費用はかさむが保証人はお金を払って業者に依頼した。

 引っ越しの挨拶のために左隣の部屋を訪ねると、自分の母親世代ほどの女性が一人で暮らしていた。

「隣に越してきた佐々木と申します。どうぞ、よろしくお願いします」

「あら、丁寧にありがとう」

 優しそうな人だとほっとしていると、北川加奈子(きたがわかなこ)と名乗った彼女に「ちょっと上がっていきないさいよ」と招待されてしまった。 

 都会と言えば近所付き合いどころか、隣人の顔も知らないほどの希薄な関係だと勝手に思い込んでいたが、加奈子さんについてはそうではなかったようだ。

「ちょうどね、いただき物の焼き菓子があるんだけど。私だけじゃ食べきれそうになくて。ひとりで食べてても寂しいでしょ」

 戸惑う私を座らせると、手際よくコーヒーを淹れてくれる。

「どうぞ」

 遠慮しすぎるのも失礼かと、差し出された焼き菓子に手を伸ばした。

「今さらだけど、時間はよかったかしら?」

「大丈夫です」

 私をもてなしてくれる心遣いが嬉しくて、笑みが浮かぶ。
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