秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
「尿検査の方は、陽性の反応が出ていますね。隣の部屋で内診をしましょう」

 初めて検査を受ける緊張と、すでに尿検査の結果を聞かされた動揺で、ずっと心臓がバクバクと鳴っている。
 
 内診を終えて半ば呆然としながら医師の前に座ると、確実に妊娠していると診断された。

『未婚ですね?』『パートナーの方とも相談して』と、いろいろ言われた気がするが、それに対して自分がなんと答えたのか記憶が曖昧だ。
 どうにかこうにか帰宅すると、ソファーに横たわったまま動けなくなってしまった。

 電気をつけるのも億劫で、薄暗い部屋の中で心細さをごまかすように体を丸める。これからどうしたらよいのかと、途方に暮れた。

 子育て経験どころか、子どもと関わる機会なんてほとんどなかった私に育児ができるだろうか?
 隣人の加奈子さんとは仲良くさせてもらっているけれど、ほかにプライベートな相談ができる知人は近くにいない。こんな状況での出産は、とにかく不安でしかない。

 かといって、広島に戻って実家に頼る気はさらさらない。そもそも帰ったところで心の許せる身内はいないし、産前産後を助けてくれるような人も思いつかない。

 逆に、未婚で妊娠したうえに、相手の男性と連絡が取れなくなっている事実を責められかねない。もしかしたら、父の立場にも悪影響を及ぼすからと、今度こそ向こうから縁を切られる可能性もある。

 それはそれでかまわないが、とにかく実家には戻らない。これだけは譲れない条件だと、ひとつ確固たるルールを決めると少しだけ落ち着きを取り戻せた。
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