秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
 考えてみれば、今の私には当面の生活に困らないぐらいのまとまったお金がある。住む場所も、仕事だって得られた。しかも、基本的に在宅である程度自分のペースで働けるのは都合がよい。
 出産前後は事前にスケジュールを開けてもらうように話しておけば、さほど迷惑にはならないだろう。

 育児だって、本やインターネットで探せばいくらでも体験談が得られる。
 頼るばかりで申し訳ないが、経験者である加奈子さんに教えてもらうことも可能だ。

 初めての育児なんてたくさんの女性が通る道なのだから、なにも産む前から怖がる必要はないと自身を奮い立たせていると、徐々に不安が晴れていく。同時に、気持ちも前向きになる。

 なんとかここで出産して育てていけるんじゃないかと、見通しが明るくなったところでハッとした。

 そういえば、堕胎しようとはほんのわずかにも考えなかった。

 体を起こして、そっと下腹部に手を当てる。
 ここに宿った命は、私の幸せの象徴だ。それを奪うなんて、あの甘い一夜と大雅に抱いた淡い気持ちを否定するようなもの。それだけは絶対にしたくない。

 お腹に宿った命を産んで、子どもを立派に育ててみせると、改めて決意した。

 それからは体調に気遣いつつ、死ぬ物狂いで仕事に取り組んだ。自由が利くうちにできる限りを尽くしたいと、がむしゃらになって働く日々は少しも辛くなかった。むしろ、充実感に満たされていた。

 幸いにも悪阻はそれほど重くなく、検診のたびにお腹の子は順調に大きくなっていたのも私の励みになっていた。
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