秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
 臨月に入ると、月日の流れがますます速くなっていくように感じた。
 お腹ははち切れんばかりに膨らみ、ひたすら愛しく感じていた胎動も、ともすると苦痛に感じるほど力強いものになっている。

 もう数週間もしたら我が子に会えるかもと心を躍らせていた頃、予定よりも早くに突然陣痛がはじまった。

 産気づいたら絶対に言うのよという加奈子さんの言葉に甘えて連絡を入れると、彼女は産院まで付き添って、そのまま心細いだろうからとずっと隣にいてくれた。


「加奈子さん、男の子だって!」

「ええ、そうみたいね。おめでとう、千香ちゃん。よく頑張ったわね」

 初産にしては短時間で生まれた我が子の顔を、ふたりして覗き込む。

「少し厚めの唇は、千香ちゃんに似ているかしらね」

 起きているときにぱっちりと開いた優しげな瞳は、明らかに父親似だ。それがとにかく嬉しくて、ますます幸せな気持ちになる。

 五月晴れの下に生まれた息子は、陽太(ようた)と名付けた。
 父親も祖父母もいないけれど、この子は私が絶対に幸せにすると強く心に誓った。
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