秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
「はあ? じゃあ家とか土地とかは、全部千香のものになるっていうの? そんなの不公平じゃない!」

 梨香にとっては初めて聞く話だったのか、途端に不機嫌さを増して、捲し立てるように抗議の声を上げた。
 またいつもの癇癪がはじまるのかと、心の内でため息をつく。

「いや、前にも話しただろ?」

 どうやら彼女の方が、人の話をしっかりと聞いていなかっただけのようだ。

「だから、不公平とかそういうわけじゃあ……」

 とはいえ、梨香を相手に強く出られない父は言葉尻を濁した。

「だったら、長女のあたしが継ぐわよ」

 これまでは祖母の支えがあったから、父も県議としてやってこられた。梨香は相続だけでなく、その立場も引き継ぐのだと理解しているだろうか。

「母さんとも決めていたし……」

「いいじゃないの、あなた。梨香ちゃんが継ぐって言ってるのよ。そうすれば私も、梨香ちゃんとずっと一緒にいられるわ」

「もちろん、パパともよ」

 のんびりとした口調でずいぶん身勝手な主張をする母と、その横で得意げにそう言い放った梨香に心底呆れる。権利を主張するには義務を果たさなければいけないという考えが、この人たちにはまったくないようだ。

 祖母に厳しく躾けられてきた私は、幼少期から我慢の連続だった。
 このふたりの奔放さが羨ましくないと言ったら嘘になるが、大人になった今、それよりも彼女らの振る舞いは成人女性として恥ずかしいと感じている。
 その点では、私を育ててくれた祖母に感謝している。

「そ、それも、そうか……」

 祖母というストッパーがいなくなった途端に意志の揺らぐ父にはがっかりだ。『県民のために!』と、外では大そうなことを言っている議員・佐々木孝(ささきたかし)なんて虚像にすぎない。この分だと、そのうち公の場でもボロを出しかねないのではないかと心配になる。
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