秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
「じゃあ、梨香が婿を取ってこの家と土地を継いでもらって、千香にはまとまった現金を……」

 方向性を見失った話し合いは緊張感もなくし、当事者だったはずの私はいつの間にか完全に蚊帳の外に置かれている。
 いや、元から話し合いの一員だと思われてなかったのかもしれないと、小さく首を横に振る。

 これ以上この場に私が残っていても、意味はなさそうだ。

「そんなのずるいじゃない。あたしだって、自由に使えるお金もほしいわ」

 瞼をぎゅっと閉じて苛立ちをこらえながら、ひたすら聞き役に徹する。

 梨香と私は一卵性の双子だが、母の溺愛する姉と毛嫌いされる妹の扱いの違いは一目瞭然だ。父はいつだって母と梨香の味方をする。

「よし。とりあえず、家は梨香に継いでもらえば……いいのか?」

 とはいえ、父はこれほどまで簡単にぐらつく人だっただろうかと首を捻る。実の父親とはいえ彼についてはそれほど詳しく知らないが、これほどふらついた人間ではなかったのだけはたしかだ。
 平気そうな顔をしているが、実母を亡くした現実が少なからず影響しているのかもしれない。

 父の疑問に否を唱えて、軌道修正しくれる祖母はもういない。
 長年、私が言い聞かされてきた話は、わずか数分で覆されてしまった。二十五年の間強いられてきた努力も我慢も、すべて水の泡となり意味をなさなくなる。
 私という人間そのものを否定されたようで、悔しいというよりも虚しさが勝る。
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