あなたの落とした願いごと
周りに人が居ないからか、少し気分も落ち着いてきた。


「あのっ、すいません…、」


滝口君が居そうな場所を知りませんか。

すっかり安心しきった私が、そう言おうとして一歩踏み出した時、


「あれ?」


宮司さんの真正面に立つ、男性の姿に気が付いた。


最初こそ、誰だろう、と思ったけれど、

暗闇でも見分けのつくレモン色の髪に、闇と一体化した浴衣、骨ばった大きな手に持った狐のお面。


それらの特徴が、宮司さんの目の前に居るのが滝口君だという事を示していた。


「あ、良かった、滝口君…!」


何処に行ったのか不安だったけれど、彼も此処に来ていたんだ。


さっきは私に“行くな”と言ってお面まで被っていたのに、どんな心境の変化があったんだろう。


でも、自力で滝口君を見つけられた事に安堵した私は彼の名を呼びながら駆け寄ろうとして、ぐっと踏み止まった。



何故なら、2人の醸し出す空気が、

凡人の私でも分かる程に強い嫌悪感を持ち合わせていたから。



親子は何かを話しているみたいだけれど、くぐもっていて良く聞こえない。


そして、そんな彼らを纏う雰囲気は、例えるなら闇よりも深く冷たい黒色だった。


「えっ、何が起こってるの…」


今は、絶対に私が出て行くタイミングではない。
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