S系御曹司は政略妻に絶え間なく愛を刻みたい~お見合い夫婦が極甘初夜を迎えるまで~

 本当は目的の駅までついていってあげたかったけど、仕事もあるし、ついてこられても気持ちが悪かろうとなんとか堪える。

 行き方を聞き終えた彼女は、柔らかい笑みを浮かべた。

「ありがとうございました」
「うん。切符代は……大丈夫?」
「あ……」

 鞄を確認して黙り込む彼女。これは、絶対に忘れたんだろうな……。
 そう思って財布から1万円を引っ張り出す。

「これ使って」
「いや、多すぎますし、そこまでご迷惑をおかけするわけには……」
「ううん。人の親切は素直に受け取って。きっとキミも他の誰かに親切をしたことがあるだろうし」

 思わずそう言うと、いろはは、少し悩んでいた。彼女がこの前にしたことに比べれば、本当は一万円でも足りないくらいなのに。
 俺は、彼女の小さな手の中にそれを入れると、彼女は深々と頭を下げて口を開く。

「本当にありがとうございます。必ずお返しします。名刺をいただけませんか?」

「これくらい本当にいいよ。それより早くいかないと」
「でも……」
「俺もこれから仕事だから。ほら、行って」

「本当にありがとうございます」

 彼女は何度も頭を下げ、先ほど伝えたホームの方向に走って行った。
 俺はその小さな後姿を、ずっと見送っていた。

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