The holiday romance
崩壊
ハジメが帰るとそこにユキの姿は無かった。

真っ白なダイニングテーブルに書き置きがあった。

[勝手なことをしてごめんなさい。
ただ今は貴方と一緒に暮らす自信がありません。
頭を冷やしたら帰りますので心配しないでください。]

ハジメはその手紙を見て急いでユキに連絡した。

もちろんユキのスマートフォンの電源は入ってなかった。

ユキは具合が悪かったのではなく、あのゴルフ場で何か聞いたんだと思ってさっきのゴルフ仲間に慌てて連絡をした。

「ユキに何か言ったのか?」

「え?」

「お前の奥さんにも聞いてみてくれないか?」

「どうしたんだよ?」

「ユキが居なくなった。」

もちろん友人もその妻も知らないというしか無かった。

本人たちは少なからず心当たりがあったが
直接ユキに言ったわけではないし、
噂話をした事はとてもハジメに言えなかった。


一方ユキは電車に乗ったもののどこへ行ったらいいか悩んでいると
電車の中吊り広告の北海道キャンペーンのポスターに目が止まり
突然、北海道旅行を決行しようと思い立った。

今までのユキは五明家の嫁であるが故にハジメにことわりもなく自由に出歩くことなど許されなかった。

旅行は必ずハジメと一緒だったし、
一人旅など出来るはずもなかったユキにとっては今が決行の時だった。

羽田空港駅行きの電車に乗りかえ
そのまま新千歳空港行きのチケットを手にした。

札幌に着いてから直ぐ宿を探した。

もう陽も落ちていて、少し肌寒かった。

すぐに駅の近くに宿が見つかり、
何度も着信のあったハジメに電話をかけた。

「ユキ!どうしたんだよ?
急に居なくなるなんて…」

「ごめんなさい。」

ユキの様子は明らかにおかしかった。

ハジメはとうとう来るべき時が来たかと天を仰いだ。

「ユキ、何を聞いたのか知らないけど
突然家を出るなんて…
話してみないと何も解決しないだろう?」

ハジメは何とか戻らせようと説得したが
ユキは全く話を聞いてくれなかった。

「ハジメさん…もうやめて。
私が子供が欲しかったの知ってるでしょう?
あなたがした事はあなたの想像を絶するほど私を傷つけた。

私はこの先どうやってあなたと接すれば良いか
今はわからないの。」

ハジメは何も言えなかった。

マユコのことはいつかはバレるかも知れないと思っていたが
まさか子供を作らないようにしていたことをユキに知られたのはハジメにとっては予想外の出来事だった。

「お願い。少しだけ時間を頂戴。
もっと冷静に話し合えるようになったら帰りますから。」

「…わかった。
でもあまり長く待たせないで欲しい。」

ハジメはユキを嫌いなわけではなかった。

ユキは心の綺麗な女性で
優しく、そして自分に深入りしてこなかった。

ユキを抱くたびにハジメの胸は傷んだ。

いつも申し訳ないと心の中で思っていたが
親に決められた相手という事が納得出来ずに
マユコと別れないでいた。

マユコも既に38歳になって
色々思うことがあり、最近はあまり上手くいってなかった。
喧嘩が絶えず、ハジメの心が休まる時はなかった。

今は気の強いマユコに逢うより、
優しく穏やかなユキと2人で家で食事をする方が癒されていた。

だけどハジメはそれをどうしても認めたくなかった。

ユキが悪いわけじゃない。

全て単なる親への当てつけだった。

親の決めた結婚が幸せだと思いたくなかったからだ。

そしてハジメは罪もないユキを犠牲にした。

ハジメはユキの気持ちを考えると自分の愚かな行動を悔やんだところでもう手遅れだった。




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