The holiday romance
逃避行
その夜は二人ともお互いの体温を感じながら
安心して眠った。

朝起きてシンの顔をマジマジと見る。

眉に小さな傷跡があってそこだけ眉毛が生えていなかった。

濃く長いまつ毛。

鼻の頭に小さなホクロがある。

昨夜自分の色んな場所に触れた薄くもなく厚くもない唇。

そして身長の割に小さな顔してるなぁと思いながらその視線を下に落とす。

浅黒い肌…そして細く見えるがちゃんと筋肉のついた引き締まった身体。

バランスの良い素敵な男の子だなぁと感心していると
シンが目を覚ました。

「おはようございます。」

ユキは急に目を開けたシンに戸惑って目を逸らして「おはよう」と返した。

シンはユキを抱き寄せてその髪にキスをする。

そして唇にもキスをするとその舌を身体に滑らせる。

ユキの身体の温度が上がっていくのがわかる。

シンはカーテンのボタンを押すと
真っ暗だった部屋の中に
窓から陽の光が差し込んでユキの身体を照らした。

「ダメ、やめて。」

明るい陽射しの中でシンに身体を見られるのは恥ずかしかった。

「綺麗だから大丈夫。」

暖かい陽射しに包まれてシンに愛されると
ユキは感じたことのない幸せを感じる。

シンはユキを自分の上に乗せるとユキの腰を揺らした。

「本当…綺麗。
動いてみて…自分で…
ユキさん…気持ちいい?」

シンの掠れた声がユキの耳を刺激する。

ユキはシンに色んな愛し方を教わってる感じだった。

行きずりの男の子との情事の方が自分の夫より愛を感じるなんて悲しいことだったけど
こんなに深く自分の身体を愛されたことがなかったユキにとってそれは幸せな時間だった。

シンは若くて頼りないと思ってたけど、
ベッドの上ではまるで自分より大人みたいで
ユキはそのギャップに翻弄される。

そしてシャワーを浴びて身支度をすると手を繋いで札幌のホテルを出た。

「今日はどこに行きますか?」

シンは街に出るとさっきまでのセクシーな男から年相応の青年に戻った。

「今日はね、小樽に行くわ。」

「小樽ですか?良いですね!

俺、行きたいとこあるんです。」

「どこ?」

「美味しいスイーツのある商店街が小樽運河の近くにあるんです。」

「あ、私もそこ行きたい!」

シンとユキはお互いのその手を離さずにいた。

「その前にホテル予約しなきゃ。

客室露天風呂付のこの旅館とかどうかな?」

「え?高いでしょ?」

「シンくんは気にしないで。
私が泊まる部屋の片隅に置いてあげるだけだから。
それにせっかく来たんだもの。
思い切り贅沢するわ。」

「そういうわけには…今夜も一緒に寝たいし…てゆーか寝るでしょ?」

シンがまた急にセクシーな男に見える。

ユキは顔を赤らめて
「じゃあ私の荷物運んで。
あと今日の食事代はシンくんが払って。」
と恥ずかしそうに言った。

「わかりました。でも何だか申し訳ないです。」

「いいの。そんなこと気にしないで。
シンくんにはたくさん幸せもらってるから。」

「それは俺だって…同じです。
俺マジでラッキーだなって…ユキさんみたいな可愛い人に逢えて…。」

シンがあまりにもキラキラした笑顔で愛を語るからユキは思わずその口を塞いだ。

「え?ユキさん…俺のことそんなに好き?
こんなとこでキスしちゃうくらい。」

「うるさいから塞いだの。」

「え?えぇ?何で?…マジで可愛い。」

シンはユキの突然のキスにただ翻弄された。

そして2人の未来を考えていた。

だけどユキはシンの気持ちとは反対に
これ以上好きになってはいけないと心にブレーキをかける。

ユキはシンの未来を壊したくなかった。

シンは自分とは生きる場所が違う。

シンには自由でキラキラした場所で生きていってほしいと願ってる。

あの地獄にシンを巻き込んではいけないのだ。

自分に言い聞かせながらそれでもユキはまだもう少しだけシンと一緒に居たかった。

ユキはホテルを予約すると
シンと小樽に向かった。

こうやって外で見るとシンは改めてレベルが高い容姿をしているなぁと思う。

反対側から歩いてくる女の子たちはシンのことを必ず一見して通り過ぎた。

「シンくんは目立つね。」

「あー、無駄に背が高いですから。」

「それだけじゃないと思うけど…
ねぇ、彼女とか居るんじゃない?
私とこんな所にいて大丈夫?」

「大丈夫です。
今はユキさんだけだから。」

"今は"という言葉がユキには切なく感じた。

シンが言ったのは今はフリーだという意味だったが
ユキはシンも今だけだと割り切ってるんだと思ってるんだなぁと思った。

その"今"が寂しくもあったが安堵もした。

これはただのアヴァンチュールで
旅が終わればシンとは二度と会うこともないと自分に言い聞かせながらユキの時間は過ぎていく。

それでもシンとの時間はあまりに居心地が良すぎて
すでに別れの時を思うだけで胸が痛んだ。

一方まだ若いシンはユキにすっかり夢中になっていた。

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