楽園 ~きみのいる場所~
 彼女の身体の柔らかさや温かさに、ドキドキもするし安心もする。首筋にかかる彼女の吐息や、遠慮がちに俺のシャツを握る手が愛おしくて堪らない。

「前に言ったこと、撤回するよ」

「……え?」

「楽と不倫したいわけじゃない、って」

「……」

「不倫、したい」

「……」

 こんなことを言われても、彼女を困らせるだけなのはわかっている。

 不倫なんて不誠実な関係を求めるなんて、軽蔑されても仕方がない。

 それでも、不倫になろうと、今すぐにでも俺のものにしたいと思っていることを、伝えたかった。

「デキないけど、ね」

「……」

「ごめんね」

「なにが?」

「好きになって」

「……ううん」

「こんな身体じゃなかったら、調停でも裁判でもして離婚して、堂々ときみを口説けるのに」



 でなきゃ、きみと遠くに逃げることだって……。



「けど、悠久さんが怪我をしていなかったら、私たちはこうして一緒に暮らすこともなかったんですよ?」

「……そっか」

「そうです。だから、謝らないで」

「……」

「私を好きだと言ってくれて……、ありがとう……」

 それまで、膝同士を突き合わせていた足が、わずかに交差した。その時、懐かしいむず痒さを感じた。



 えっ?

 勃――っ!?



 伸びがあるとはいえ、ボクサーパンツとスウェットを押し上げる窮屈さはわかる。

 が、すぐに、その窮屈さはなくなった。



 気のせいか?



 すーっと楽の寝息が首筋をくすぐり、再び足の間に違和感をもつ。

 驚きと期待で、鼓動が加速する。

 楽になら、勃つかもしれない。

 そう思うと、眠れなかった。

 俺は、楽の寝息を聞きながら、楽の寝息を首筋に感じながら、いつか彼女を抱けたらと、いつか彼女を悦ばせることが出来たらと、強く願った。
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