楽園 ~きみのいる場所~
「そんな年上、嫌じゃなかった?」
俺のシャツを握る楽の手に力がこもる。
「普通の……結婚が出来るなんて思ってなかったから……」
「どういう意味?」
「出会って、好きになって、恋愛して、結婚する……っていう、普通の結婚」
「どうして?」
「身体に……傷があるの。たくさん。それに、お父さんとの関係とか、そういうのも……考えたら、私には……なんか……」
楽の父親は、楽の存在を萌花にも隠していたと言っていた。楽の結婚式で初めて会ったようなものだ、とも。
ある程度社会的に権力を持っていたおばあさんだったから楽を父親から救い出せたのであって、そうでなければ籠の鳥のままだったかもしれない。
「仕事も……全然、何も出来なくて、だけど、修平さんがパソコンの使い方とか教えてくれたの。就職も、修平さんが社長をしていた会社に入れてくれて、ホント……いくら感謝しても足りなくて……」
「だから、結婚?」
「修平さん、おばあちゃんやご両親を安心させたい、って……。私も、おばあちゃんの願いを……叶えたかったし。その……、夫婦らしいことはしなくてもいいって……言ってくれたし……」
見たことのない楽の元夫に対して、嫉妬心が湧く。
結婚して恩を返せ、ってことだろ。
楽が言うには、そんなに悪い男じゃなかったのだろう。けれど、楽に拒否権なんてなかったはずだ。
結局、囚われる籠が変わっただけじゃないか。
それに、夫婦らしいことはしないなんて言っても――。
「楽、処女なの?」
よぎった疑問が、そのまま言葉になってしまった。
楽は更に俯き、俺には彼女のつむじが見えるだけで、どんな顔をしているのかはわからない。
手探りで彼女の顎に触れ、少し強引に顔を上げさせた。
真っ赤な顔をしている。目には、涙が浮かんでいる。恥ずかしくて堪らないようだ。
そして俺は、そんな彼女の表情に、堪らなくなる。
楽を抱き締めていて、微かにパンツの中が窮屈な感触はある。気づかれるほどではないが、感情が昂り、その感情を汲み取ろうと身体がもがいている。
「前に、俺にシてくれようとしたよね? 処女がそんなこと……思うかなと思って。でも、元の旦那さんはセックスはしなくていいって言ったんでしょ?」
「それ……は――」
「すごく単純に疑問に思っただけだから。処女じゃないからって見る目変わったりしないし。逆に、結婚してたのに処女な方が、疑問が増えるけど」
「処女じゃ……ない」
数秒前の自分の言葉を撤回したい。
楽を見る目が変わったりはしないが、嫉妬心は膨れ上がる。
「約束は守られなかった?」
「そうじゃないの。修平さんは……その……EDというやつで、その原因は、結婚を約束した恋人を忘れられないからで……。だから……」
「けど、治った?」
「治ったというか……」
それで、不能の原因は心因性のことが多いと知っていたのか。
カウンセラーに話を聞いたというのも、元夫のEDを治すためだったのだろう。