楽園 ~きみのいる場所~
「あの目隠し……」
『違う相手を想像すると改善されることがある』と、楽は言った。
カウンセラーに言われたのだろうが、それは要するに、楽以外の女を想像すればいいということ。
「そいつは、目隠しして、楽じゃない女を思い浮かべたら勃った?」
溜まりに溜まった涙が、楽の頬に零れ落ちた。
「そんな風に、処女、あげちゃったの?」
「でも……ダメだったの……。結婚して、修平さんもおばあちゃんもすごく優しくしてくれて、私、幸せだった。だけど……、修平さんは跡取りだから、子供はまだかって言われるようになって、私……」
「恩返しに子供産んであげようとしたの?」
「そんなんじゃ――! ただ、私も家族が……欲しかったし、修平さんのこと、その……す、好きだから……」
「セックスして子供を産みたいと思うほど?」
完全に、嫉妬に駆られた問いだ。
違うと、言って欲しくて聞いた。
勝手なことを言っているのは、わかっている。
その証拠に、楽が涙をポロポロとこぼしながら、唇を噛んでいる。
俺は楽の顎を掴んでいた手を離し、彼女の後頭部に回して抱き寄せた。
「ごめんっ! 意地悪なこと、聞いた」
スウェットが彼女の涙を吸う。
「ごめん」
楽がふるふると首を振る。
「くだらないヤキモチ妬いた。ごめん」
今度は、ぶんぶんと首を振る。
「私も……妬いた。萌花の結婚相手が間宮くんだって知って、ずっと、羨ましかった」
そうだ。
楽は俺の結婚式に出席していた。
他の女の身代わりにするような男と一緒に、自分に「初めまして」と挨拶するような不甲斐ない元カレの結婚式に。
「ごめん……っ!」
顔が変わっていたせいとはいえ、楽に気づかないどころか萌花に姉がいたことすら忘れていたなんて、悔やみきれないほど悔やまれる。
楽がどんな想いで結婚式を見ていたか。逆の立場だったらと思うと、余計に胸が締め付けられる。
「結婚式で楽に気づけなかったことも。この家で再会した時も。無神経に――っ! 楽との思い出話なんかして――っ!!」
「嬉しかったよ?」と、楽が顔を上げた。
目は真っ赤で、涙を拭ったせいか頬も赤い。
「間宮くんが私のことを憶えていてくれて、嬉しかった。いきなりいなくなった私のことなんて、思い出すのも嫌だとか、思ってなくて……良かったって……おも――」
「――思い出すと苦しかったけどっ、思い出したくないなんて思ったことない。それどころか、段々思い出せなくなってく方が辛かった。ずっと……謝りたかったから――」
「――――?」
「俺と付き合ったせいで嫌がらせされてたって知らなくて、守れなくてごめん。一人で我慢させて、ごめん」
楽は眉根を寄せて、涙を堪えるように唇を噛んで、大きく首を振る。
「間宮くん、モテてたから……、私……が彼女じゃ……誰も納得できないのわかってたの。だから……」
俺は彼女の頬にそっと触れた。
熱を帯びて、僅かに湿った肌は柔らかい。
俺の腕の中で声を震わせ、瞳を潤ませる姿が可愛くて、愛おしくて堪らない。
「間宮くんに似合う……女の子になりたかった。堂々と、並んで歩けるようになりたかった。だから――」