楽園 ~きみのいる場所~
「明日が……当たり前にくるものじゃないって、知ってるから……。ううん。思い出したから! だから――」

 少しだけ距離を取って、今度は俺が楽を見上げた。

「――一緒にいられる現在(いま)を大切にしなきゃって思ったの」

「楽……?」

 彼女の額が、俺の額に触れる。鼻先が、触れる。

 唇が触れないことが、もどかしい。

「悠久くんに、触れたいの。触れて欲しいの。いつか、じゃなくて……、今、そうしたいの」

「けど――」

「――最後までデキなくてもいいの。不倫……でもいいの」

 楽の瞳から涙が零れ、俺の頬に落ちた。ゆっくり流れて、俺の唇を濡らす。

「もう……後悔したくないの」

「後悔?」

「事故の後で、後悔した。もっと、悠久くんと一緒にいたかったって。もっと、触れたかったって。触れて欲しかったって。もっと……キス……したかったって。だから――っ」

 噛みつくように、キスをした。

 一秒も惜しむように、楽のパジャマの裾をめくり上げ、胸を揉み上げる。柔らかい素材の下着を押し上げ、先端を弄ぶ。

「俺……もっ……、触れたい」

 キスの合間に、囁く。

「触れてほし……い」

 楽は自らパジャマを持ち上げ、頭と腕を抜いた。下着は、俺が脱がせた。

 初めて、彼女の身体を見た。

 照明を、消していなかったから。

「綺麗な身体じゃなくて、ごめんね……?」

 だいぶん薄くはなっているが、赤く盛り上がった傷が身体中のあちこちにある。彼女の白い肌に浮き上がるその全てが、ガラスが刺さった痕なのかと思うと、ゾッとする。

 同時に、こんなにもたくさんの傷を受けながら、生きて、こうして再会できたのは奇跡でしかないと神に感謝した。

 俺は鎖骨と、肩の少し下の傷に口づけた。

「胸には傷がないんだな」

 正面から見て脇から上と脇腹ら辺に傷が多い。

「お母さんが……庇ってくれたから」

「……そうか」

「うん。だから、背中や足は……傷だらけなの」

「見せて」

 楽がゆっくりと上半身を捻る。

 言う通り、脇から背中にかけて、二センチくらいから十センチくらいのものまで、様々な大きさの傷がいくつもあった。

「気持ち悪いでしょう?」

「生きててくれて良かったって……思う」

 彼女の背中に口づける。

 何度も何度も。

「悠久く――」

「生きていてくれて、ありがとう」

 背中に口づけながら、手は彼女の腹を撫で、胸に滑らせる。指の腹で円を描くように先端をこね回すと、楽が小さく息を吐いた。

「俺を見つけてくれて、ありがとう」

 傷に口づけ、舌を這わせ、吸い付く。胸を揉み上げ、先端を摘まみ、弾く。腹を撫で、パジャマの中に侵入しても、今度は拒まれなかった。

「んっ――!」

 何度もセックスをした。

 楽とは初めてだし、ハジメテの時のように緊張も興奮もしているけれど、俺はハジメテではないし、経験から女性が感じる場所やそこをどう愛撫したらより一層感じてくれるかはわかっている。

 はずなのに。

 楽が声を漏らすだけで安堵する。

 一時は、二度と女性を抱けないと思った。

 今も、まだわからない。

 それでも、こうして楽を悦ばせることが出来て、嬉しい。
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