天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
 正直、井之頭さんのことを見ている余裕など全くなかった。
 優弦さんを玄関まで送り届けようとそのまま一緒に歩くと、彼は靴を履く前にピタッとその場に止まった。
「彼女たちに、どうしてあんな言葉を?」
「え……」
 真っ直ぐな瞳で問いかけられ、誤魔化すことはできないと思った。
 どうしてあんな言葉をかけたのか。
 もちろん、複雑な気持ちにもなったけれど、私は私がやりたいように行動しただけだ。
「身寄りのない人間にとって一番大切なのは、居場所なんです」
「居場所……」
「強い孤独を感じたときに、誰かひとりにでも必要だと言われることは、大きなことだと思いました」
 そこまで意見を述べると、優弦さんはますます眉を顰める。
 ひどいことをしてきた彼女たちに、どうしてそこまで思えるのかと言いたいのだろう。
「私は、私のように孤独な人間を増やすことを望んでいません。何か理由があるとしたら、それだけです」
 まっすぐ彼の目を見つめながらそう答えると、優弦さんは再び目を見開く。
 情けをかける私を意外に思ったのだろうか。それとも、綺麗ごとだと思ったのだろうか。
 私は「それでは、いってらっしゃいませ」と頭を下げて優弦さんを送り出した。
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