天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
 暴言を吐き捨てた俺に殴りかかろうとした父親だったけれど、力では敵わないことをことを察したのか、途中で拳をおさめた。
「そこまでお金が欲しければ、相良家の土地ごと売るなりなんなりしたらどうですか」
「お前に何がわかる……!」
「そろそろ気づいては? ……この家に縛られているのは、もうあなただけだと」
 俺はそう言い残すと、怒りで震える父親をその場に置き去りして去った。
 必死に感情を抑えていたせいだろうか。
 手のひらには爪がかなり強く食い込み、内出血を起こしていた。
 自室に入ると、俺は本棚へ向かい、父親が執筆したバース性に関する本を手に取る。
 自分の無力さに絶望したあの夜、ビリビリに引き裂いたこの本。
「もう少しだ……」
 ぐっと本を片手で握りしめ、怒りを鎮める。
 そっと目を閉じると、病院で泣き叫んでいる世莉のことが浮かんでくる。
 彼女を救いたいなんて大それたことは思っていないけれど、どうか、心から笑ってくれる日がきたら……。
 俺にはもう、何も残らなくたっていい。
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