全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
「もしもし。お母さん? 昨日は電話に出れなくてごめんね」


 仕事が終わって家に帰る途中、実家に電話をかけた。
 母から昨日電話がかかってきていたのだけれど、私は魁の家に行っていたので出れずにいたのだ。
 着信は一度きりだったので急用ではないのだろうと勝手に判断して、今に至っている。


『仕事が忙しいのはわかってるけど、休みがないわけじゃないでしょう? 今度一緒に出かけましょ』

「え、どうしたのよ。どこか行きたいところがあるの?」

『いい結婚相談所を見つけたの!』


 母親との単なるお出かけだと思った娘の純粋な気持ちを返してほしい。
 母の頭はまだまだ私の結婚問題に(とら)われている。そうだ、母はこういう人だったではないか。
 スマホを耳から少しだけ離し、ハァーッと盛大な溜め息を吐きだした。


『成婚率がすごく高いんだって。エリートって呼ばれるような男性会員もたくさんいるらしいから、どんな感じなのか話を聞きに行きたいわ』

「お母さん……まだあきらめてなかったんだね」

『当たり前でしょ!』


 二十五歳での婚約破棄の一件を母が未だに気にしていて、私に素敵な男性と縁を結ばせたいと躍起になっているのはわかっている。
 だけど私は今、結婚していなくても楽しく暮らしているのだから放っておいてほしい。


「私ね、今お付き合いしている人がいるのよ。だから結婚相談所は必要ない」


 私には魁がいるのだから、ほかに相手を見つける行動なんてできるはずがない。
 由華さんの言うとおり、私が愛する男の席はひとつで、今はそこに魁がしっかりと座っている。



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