全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
「やだな、朝からどうしたのよ」

「及川さんは若い社員のお手本みたいな人だなって、いつも思ってるだけです」


 こういう発言をする峰松くんは若いな、と瞬間的に思ったものの、彼はえっと……私より七期下だから、今年で三十歳になる。
 もう新人の域はとっくに超えていて、彼だって入社したての社員とは年齢が離れてきているから、ジェネレーションギャップが生じ始めるころだ。


「あーあ、お世辞がうれしい年になっちゃったなぁ」

「お世辞じゃないっすよ。マジでカッコいいっす!」

「もうおばさんでしょ。あ、会社だから“お局様”かな」


 私が自虐的にアハハと笑い飛ばせば、峰松くんは複雑な笑みを浮かべて去っていった。
 後輩を困らせてしまっただろうか。

 若手社員たちに嫌われている自覚はないものの、実際には陰で私がどう言われているかはわからない。
 それこそお局様として鬱陶しがられているのかもしれないが、私の耳に入ってきてはいないから、わざわざ知る必要もない。

 中堅社員というのは難しいポジションなのだ。
 上からはあれこれうるさく叱咤され、下にはモチベーションを上げさせるように励まさなければならない。気を使いすぎて半端なくストレスが溜まる。

< 2 / 149 >

この作品をシェア

pagetop