全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
「飯作ったんだ。一緒に食べよう」

「え? 魁が料理を?」


 ひどく驚いた声を出してしまったが、よく考えればそんなにビックリする事柄でもないのだ。
 ひとり暮らしの男性が自炊をしているのは珍しくはない。


「今日は仕事が休みだったし、時間があったから。郁海に会いに店に行ったあと、帰ってきて作った」

「いい香りがする」

「たいしたものじゃないけど、メインはビーフシチュー」


 テーブルの上には熱々のビーフシチューを始め、サラダや飲み物が並べられ、最後に焼きたてのガーリックトーストが登場した。

「いただきます」と手を合わせたあと、真っ先にビーフシチューを口に含んでみたが、コクのある深い味わいがしておいしかった。


「すごいね。こんなに準備するなんて。味もおいしい!」

「よかった。郁海が来るから張り切ったんだ」

「ありがとう。今度は私がなにか(おご)るね」


 今日はご飯を一緒に食べる約束まではしていなかったから、ある意味私にとってはサプライズだ。
 魁が私のためにあれこれ考えて食事を作ってくれたことを、素直にうれしく思った。

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