雪のとなりに、春。
「わかってた。ナツメの方が上だって。でも悔しかった」


皐月から毎日のようにぶつけられていた言葉は、やがて俺の中で本当になっていた。

だから皐月のこの言葉には素直に驚いて、何度か瞬きを繰り返す。


今思えば俺は、皐月に対してだけはいつだって本音で話していたと思う。

皐月はどうかわからないけれど、「嫌い」「苦手」という言葉は多分本当。
俺だって皐月に対する嫌悪は隠すことはしなかった。

お互いが嫌いで、嫌いだから素直に言葉をぶつけ合った。
……さすがに嫌がらせはしなかったけれど。


それでも、なんだろう。


皐月から聞くこの類の本音は、初めてかも知れない。
「本音」なんていう一言で表してしまうにはもったいないほどの、なにか。


「……あの日は皐月がいてくれて助かった、ありがとう」


皐月が求めている言葉はこれじゃないのもなんとなくわかってるけれど。
独り言だというのなら俺も独り言で返すほかない、と思う。


「俺はお前と違って医者になるからな。お前は本当にそれでいいのかよ」


独り言にしてはやけに機嫌が悪そうだ。
それがなんだかおかしくて口角が自然と上がる。


「少し、考えてみる」


だって、思ってしまったから。


「雪杜くんっ!!」


ここにいるわけがない、でも決して聞き間違えるはずのない声が聞こえて、振り返る。


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