離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 そこに映っているのは、黒髪のロングヘアの私。

 その姿が母の面影に重なる。

 母はとてもポジティブな人だった。

 三代続く政治家一族の我が家には、常にたくさんの支援者や国内外からの要人が訪れ、それをもてなすのは家を守る女性たちの役目だった。

 そして選挙期間になれば、多忙な夫の代わりにあいさつ回りをして頭を下げる。

 そんな姿は子供の私の目にも大変そうに見えたけれど、母はいつも笑顔だった。

 きっと母だって、父との政略結婚に不満があったに違いない。

 だけど文句を言うよりも与えられた環境でせいいっぱい前向きに生きてきたんだろう。

 私はそんな母が大好きだった。

 だから自分もそうありたいと思う。

「映画やドラマみたいな恋には憧れるけど、そんなの私には縁がないってちゃんとわかってるから、大丈夫だよ」
「琴子はおりこうすぎるから、いつか限界がきて爆発するんじゃないかって心配だよ」
「そう言うひとみは自分の気持ちに正直すぎだけどね」

 心配してくれる優しい友人に、冗談を言ってごまかす。

 ひとみは私と同じ高校に通っていた。

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