離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 いつの間に出てきたんだろう。
 
 そこには忍さんが立っていた。
 
 着替えを用意し忘れたのか、裸にバスタオルを巻いただけの姿だった。
 
 私を見下ろし、困惑した表情を浮かべている。
 
「し、忍さん。これは……っ」
 
 一気に血の気が引いた。
 
 忍さんにだけは、妊娠していることを知られるわけにはいかない。
 
 だって彼は私を愛していないから。
 
 彼が求めているのは形だけの妻で、私たちは二年後離婚するんだから。
 
 そんな彼にとって、私の妊娠は迷惑でしかないだろう。
 
 しかも、彼はあの日デートした相手が私だってことは知らない。
 
 きっと、違う男の人と浮気してできた子供だと疑われるだろう。
 
 離婚して縁を切られるか、最悪おろしてくれと言われるかもしれない。
 
 それだけは、絶対にいやだ……。
 
 妊娠した自覚なんてまったくないのに、なんとしても子供を守りたいという強い気持ちが湧きあがってくる。
 
「大丈夫か?」
 
 忍さんが片膝をつき、心配そうに私の背中をなでてくれた。
 
「す、すみません。ちょっと飲みすぎたのかもしれません」
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