離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
「琴子は一滴も酒を飲んでなかっただろ」
「それは……」
 
 なんとかごまかそうとしたけれど、すぐに嘘を見抜かれてしまう。
 
 忍さんはまっすぐな瞳で私を見つめ、そして覚悟を決めたように口を開いた。
 
「もしかして、妊娠しているんじゃないか?」
 
 それは確信を持った問いかけだった。
 
「……っ!」
 
 顔色を変えた私を見て、「やっぱり」とつぶやく。
 
「ち、ちがうんです。妊娠なんてしてませんっ。これはただ、具合が悪いだけで……」
「だったら病院に行こう。きちんと診てもらったほうがいい」
 
 こんな状況でも彼は冷静だった。
 
 怒りを見せることもなく、淡々とそう言う。
 
「病院なら、明日ひとりで行きますから」
  
 彼と一緒に病院に行ったら、もう言い逃れできない。
 
 なんとしてもごまかさないとと、必死に頭をめぐらせる。
 
「そんな真っ青な顔をして、放っておけるわけないだろ。頼むから、俺の言うことを聞いてくれ」
 
 忍さんはつらそうに顔をゆがめ、低い声で語りかける。
 
「でも、でも……」
 
 妊娠を知られるのは怖い。
 忍さんに拒絶されたくない。
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