離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 そう思い近づこうとすると、茶髪の男の人は舌打ちをしてラウンジから逃げるように歩きだした。

 こちらにやって来た彼と、すれ違い様に目が合う。

「あの、アプリの……」

 私が話しかけた瞬間、思いきり睨まれた。

 驚いて身を引くと、彼は私を無視して出口へと向かった。

 あれ、人違い?

 それにしても、声をかけただけで睨まれるなんて。
      

 態度の悪さに面食らいぽかんとしてしまう。

 すると、さっきまで彼と対峙していた長身の男性がこちらに近づいてきた。
       

 その彼の独特の雰囲気に自然と目が奪われる。

 手足が長く均整のとれた体にまとったスーツは、遠目にも上質だとわかった。

 綺麗な黒髪に理知的で端正な顔。

 ゆったりとした足取りと落ち着き払った表情から、大人の余裕と自信が感じられた。

 ラウンジにいる女性たちがうっとりとした表情で彼のことを目で追っていた。

 その気持ちもわかる。

 思わず惹きつけられるほど、魅力的な人だったから。

「――君が待ち合わせの相手か」

 低く響いた声に、私は目を瞬かせる。

< 16 / 179 >

この作品をシェア

pagetop