離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 そう言って彼が私の髪に触れようとしたとき、うしろからのびてきた長い腕が私の肩を抱いた。
 
 驚いて顔を上げると、忍さんが男性から引き離すように私を抱き寄せていた。

 そして、私を腕の中に抱いたまま目の前に立つ男の人を見下ろす。

「なにか?」
 
 低い声に込められた威圧感に驚く。
 
「あ、いえ。なんでもないっす」
 
 男性は青ざめながらあとずさりをして去っていった。
 
 少し離れたところにいた友人らしき男の人と合流すると「こえー」と息を吐き出す。
 
「牽制されて逃げ出してんの、だっせぇ」
「しょうがないだろ。あんな男に睨まれたらビビるって」
「ってか、ほかの男とデート中の女に声かけるか普通」
「手もつないでなかったから、ひとりで来てんのかと思ったんだよ」
 
 そんなやりとりをする男性たちに、忍さんはするどい視線を向けていた。
 
「忍さん?」
 
 名前を呼ぶと、忍さんは私を抱きしめていた腕をゆるめため息を吐く。
 
「俺が隣にいるのに、ほかの男にナンパされるなよ」
「え。今のナンパだったの?」
 
 偶然ぶつかってしまったのかと思った。
 
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