離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 彼女をもっとよろこばせてやりたいと思った。
 
 ずっとこの笑顔を見ていたいと思った。

 そして、そんなことを思う自分に驚いた。
 
 真っ赤な顔で『キスをして』とお願いされたときはいじらしくてたまらなかったし、勇気を振り絞るように『今日は帰りたくない』と言われたときは理性が焼き切れるかと思った。
 
 ホテルのベッドの上で琴子に『私は恋愛慣れしてるし、いつもこうやって遊んでる』と言われたときは嫉妬を覚えたけれど、すぐにそれは嘘だとわかった。必死に背伸びをしていたけれど、反応や表情からはじめてだってことは伝わってきた。
  
 恥じらっているのに体は敏感で、指をすべらせるだけで甘い声をあげる。
 
 そんな反応がかわいくて、とことん甘やかしてやりたくなった。
 
 俺は彼女にすっかり惚れてしまったんだと思う。
 
 こんなにも愛おしいと思うのははじめてで、そんな自分に戸惑っていた。
  


 翌朝、目覚めると彼女はすでにいなかった。
 
 なにも言わず帰ってしまったことに少しショックをうけたけれど、どうせすぐに再会できると気を取り直した。
 
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