離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 ころころ変わる表情がまぶしくて、目が離せなくなった。
 
 水族館に入り大きな水槽の前にいるとき、ふたり組の男が彼女をじっと見ていることに気が付いた。
 
 短いスカートから出た綺麗な足やくびれた体のラインに向けられる視線が不愉快でたまらなかった。

 そのうちひとりが彼女にぶつかった。
 
 話しかけるきっかけを作るために、わざとぶつかったように見えた。
 
 館内は薄暗く大きな水槽の前にはたくさん人がいたせいで、琴子の隣にいる俺に気づかなかったんだろう。
 
 魚の群れにみとれ気を抜いていた彼女は、よろけて倒れそうになる。
 
 それを支えようと手を差し出した男を見たとき、どうしようもなく強い独占欲が湧いた。
 
 たとえ体を支えるだけでも、ほかの男が彼女に触れるのは許せないと思った。
 
 奪い返すように琴子を抱き寄せ男を睨む。
 
 ほかの男に嫉妬して牽制するなんて、はじめてだった。
 
 男が去ったあとも、彼女は俺のものだと誇示するように手をつないで歩いた。
 
 華奢な手は汗ばんでいて、つないだだけで緊張する様子を素直にかわいいと思った。
 
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