あの夏の日の午後のこと、私はきっと忘れないだろう
これが私を幻滅させる作戦なら、雄太さんはなかなかの策士だと思う。
けっこう効果的というか.……イイ線いってると思うわ。
「もう……帰る」
「そう?」
「お母さんもそろそろ着くと思うし」
「美也子さんが着いてからでも」
「……帰る」
席を立って玄関で靴を履いていると、後ろを歩いていた雄太さんがサンダルをつっかけて玄関の扉を開ける。
「紗良ちゃん、今日はありがとうね」
差し込む光を浴びながら振り返って、雄太さんは何事もなかったかのように笑う。
「雄太さんて、すごくいじわるな人だったんですね」
「えっ?そう?」
「じゃなかったら、劇的に鈍い」
「あー……それは否定できないな」
苦笑する感じに、変わった笑顔。
それを見上げた私、キュッと唇を引き結んで立ち上がった。
「初恋、だったんだから」