あの夏の日の午後のこと、私はきっと忘れないだろう

もう何年も来てはいなかったけれど。

小さな頃から何度もみた景色を、何度も使ったことのある駅の名前を、忘れるはずがない。

すべるようにホームに入った電車が停止し、目の前のドアが開くと、私は人波に押される形でその懐かしい駅のホームに降り立っていた。


ここから歩いてしばらくのところに、あの人が住んでいる。



会いたくて会いたくて……だけど、会いたくない、あの人が。



私の心は全く違う2つのことを同時に叫んでいるのに、私の体は慣れ親しんだ道を自然と歩き出していた。

母と、父と、祖母と、……伯母と、あの人と。

何度も歩いた道は変わりなく、辺りの様子はちょっとだけ変わっていた。

以前は少し遠いと感じていた道も、今日はあっという間に終わり、目的地が見えてきた。

古めかしい金属製の門の横に、変わらない『早川』の表札を確認して、私は足を止める。

そっと覗き込んだ庭はあの頃のまま、きれいに手入れがされていて……



そこには叔父が……

変わらない、あの頃のままの、あの人がいた。


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