そして僕はまた、君に出会える時を待つ

時間がないって、どういうことだろう?

そう思ったけれど、ぽつんと落とされた言葉のあまりにも切ない響きに、僕は口をはさむことができなかった。

「だから……その、彼が悪いとか、そういう話じゃないの……わかるでしょ?」
「うーん……」

マスターのキュッと上がっていた口角が微妙な感じに歪み、小さなため息を吐き出す。

「俺は……それもどうかと思うけどね」

その話題はそこで立ち消えになり、コーヒーを飲み終わった加奈子さんは短い挨拶を僕にくれて、席を立った。

「またね」
「うん、ごちそうさま」

慣れた感じの挨拶をマスターと交わして。

出ていく加奈子さんが、開いたドアが閉まる音。

コツ、コツ、と彼女のハイヒールが、石畳の上を遠ざかっていく。


その音を耳にした瞬間に、僕は立ち上がり、店の外に飛び出していた。

「……っ、あのっ!」

びっくりしたように振り返る加奈子さんに、勢いのままに歩み寄る。

「試してみませんか?」
< 31 / 83 >

この作品をシェア

pagetop