もう遠慮なんかしない

彼氏がいたらもっと違う充実感が得られるのかな…と思うこともあるけれど、実際には仕事で相澤さんと組めるだけで、かなりの充実感が得られていたので、兄に改めて言われたものの今のままでいいと思っていた。

初めて憧れの相澤さんと一緒に仕事ができたのは就職して2年目を迎えたある日のこと。

相澤さんがチーフの仕事に私もプログラマーとしてチームメンバーに選んでもらえた時は飛び上がるほど喜んだのは言うまでもない。

最初のきっかけをくれたのはトッププログラマーである江川さんの推薦があったからだった。

ある時江川さんが休憩中だから仕事と関係ないけど、と聞いてきたことがあった。

「中西さん、お兄さんいる?」

「いますよ」

「もしかしてゲーム作ってない?」

「えぇー。なんでそんなことまで知っているんですか!」

「なんでって、一緒に仕事してたからな。前に中西さんの写真を見せてもらったこともある。あの頃とはずいぶん変わってて、全然気がつかなかったんだけどね」

「兄が見せた写真って…それって大学生の頃のですか?黒歴史なんで忘れてください」

「簡単には忘れられないよ。あれはあれでね、可愛かったんじゃない?お兄さんとしてはさ」

「あぁ、悲しい。恥ずかしくて今すぐ消えたいです」

なんてことがあった。

江川さんの前歴が兄と同じ会社だったという偶然から、何度か一緒に仕事をさせてもらい実績を増やしていけた。

兄に話をしたら、「江川さんはTEAシステムの立ち上げにも関係していたはずだ」と教えてくれた。

そんなすごい人に認めてもらえ、自信を持つこともでき、仕事に遣り甲斐も感じる毎日だった。

「そうか、中西自慢の妹ちゃんに会えて嬉しいよ。これからビシバシしごいてやるよ」

笑顔でそんなことを言われたが、実際にはとても親切に指導してくれた頼りになる先輩だ。

江川さんからのそれなりに良い評価のおかげで、最近では相澤さんのプロジェクトに参加させてもらえる機会が増えていた。

単純にまた、一緒に仕事ができると喜んでいた頃、新たな業務が動き出した。
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