【短編】地味男が同居したら溺甘オオカミになりました。
「はーい、そのまま二人でおしゃべりでもしてリラックスしててー。こっちは勝手に撮ってくからー」

 こちらの会話や様子を気にもせず、長谷川さんはそう言うとカメラを構える。

 パシャ、カシャ、というシャッターを切る音に思わずそちらを見てしまうと、いつの間にか伸ばされた手に頬をスルリと撫でられた。

 そのまま、いつもキスをするときのように顎をすくわれる。


「ほら、伊千佳さん。こっち見て」
「あ、うん」
「そう、そうやって俺だけを見ててよ」
「え……?」

 色気を含ませた微笑みが私を見下ろす。

「こんなにかわいい伊千佳さんを独り占め出来ないなんて悔しいよ。だからせめて、俺だけを見てて。他の男を見ないで」
「他の男って……長谷川さんも?」
「うん。次見たらキスしちゃうから」
「ひゃい⁉」

 カシャッ

 とんでもないことを言われて変な声を出したところを丁度撮られてしまう。

「も、もう! 村城くんのせいで変な顔撮られちゃったじゃない!」

 そう文句を言うと、今度はイタズラっ子のような無邪気な笑顔に変わった。
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