俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました
「あの、志波(しば)さんが、MISAIJI(ミサイジ)グループの……」

「そうだよ。志波は母親の旧姓。円滑に働くために、グループ会社ではずっと偽名で通していたんだ」


そこで、以前のことをはっと思いだす。


「もしかして、だから契約とか重要事項説明を自分でやらなかったの?!」


働いているとき、ずっと疑問に思っていた疑惑がすっと解ける。

「偽名で契約書にサインするわけにいかないからな。資格証だしたら同僚達にも正体バレるし。本名だとほんと色々面倒なんだよ」


仕方ないとばかりの顔をした音夜。


「でも今は、本名で働いているんだ……?」


美夜(みよる)が何気なく聞くと、音夜はくわっと怒りをあらわにする。


「誰のせいだと思っているんだ?」

「え、わたし?!」

「美夜が急に姿を消すから、連絡先を聞きたくて会社を訪ねたんだよ。仕事の話を装ってな。でも、一介の営業マンじゃあ何も教えて貰えないし、あまつさえ、関係を疑われて、駅前の再開発だけじゃなくて、その他の契約も裏で結託してたんじゃないかなんて言われて……」


想像していた最悪のパターンが見事に繰り広げられていて、美夜は顔を青くする。


「プロパティーがMISAIJIに問い合わせたんだよ。そうしたら、機密だっていうのに、総務が情報を喋ってしまったんだ。美才治がそんなことするわけありません、って。そこからはものすごい勢いで情報が駆け巡って……」

「ご、ごめんなさい……」


それで、偽名を使えなくなったというわけか。



「まあ、二人の疑惑も晴れたわけだし、周りからもそろそろ一般社員のふりも辞めろって言われていたのもあったから丁度よかったのもあるけど。
……色々事情があったにしろ、美夜の仕事の仕方にも問題がゼロではなかったと思うよ。成績も大事だけど、もう少し、社内の人間関係も構築して、信頼も育てるべきだった」

「仰るとおりです……」


自分が辞めたあとに何があったのか知らないが、的確な指摘に、プロパティーの人達が音夜にも嫌な思いをさせてしまったのだと思った。
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