騎士団専属医という美味しいポジションを利用して健康診断をすると嘘をつき、悪戯しようと呼び出した団長にあっという間に逆襲された私の言い訳。
「ルチア先生。怪我したんですけど……」

 新人騎士のジェイコブは、すまなそうにそう言って、額の傷からだらだらと血を流しながらノックもせずに救護室の扉を開けた。押さえている布が真っ赤で、出血は凄そう。

 怪我をしている時に悠長にノックなどしている場合ではないことは、部屋の主である私にだって理解は出来る。けど、私が帰宅する前の準備で着替え中だったりする時は、彼はどうするつもりなのかしら。

 流血している人を前に特に動揺もせずに冷静にそう思ってしまったけど、それは仕方ない。私にとっては血は見慣れたもので、別に言い過ぎでもなんでもなく毎日見ている。

 だって、私はこの国では珍しい女医だから。

「あら。大変。そこに座って。消毒しましょう」

 ジェイコブは私の言葉に頷き、患者用の低い丸椅子に腰掛けた。彼は精鋭揃いで有名なシュヴァルツ騎士団所属なので、鍛錬中に真剣が額に当たって怪我をしてしまったんだろう。

 もちろん。実戦でもないので鎧などは特に身に着けておらず、剥き出しの灼けた腕にはがっちりとした筋肉。

 美味しそう。もしかして、涎が出てないかしら。
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