騎士団専属医という美味しいポジションを利用して健康診断をすると嘘をつき、悪戯しようと呼び出した団長にあっという間に逆襲された私の言い訳。
「っ……痛いです。先生。沁みる」

 ジェイコブは新人だから鍛錬中の怪我が多い。それに、痛みについてはあまり強くないらしい。

「我慢しなさい。こうしてきちんと消毒をしないと、化膿するわ。膿を持てば、もっと痛いわよ」

 特に表情を動かさずに私がピシャリと叱れば、まるで耳を垂れた犬のようにして、しゅんとジェイコブは項垂れた。

 大きな身体をしているというのに、可愛らしい仕草を見て、私は背中にゾクゾクとしたものが走るのを感じた。

 彼の優しい性格や、新人というまだ慣れない立場だからというのも、可愛いと思ってしまう大きな要因なのかもしれない。

「ルチア先生! 居ます? 今、遠征から帰って来た奴が足に怪我をしてて」

 また勢い良く扉が空いて、中堅ところの騎士グラーフが顔を覗かせた。

 このまま、ジェイコブの若い筋肉を堪能しようかと思っていたけど、次なる筋肉が待ち受けているのなら仕方ない。

「少し待って。ジェイコブの怪我の治療が終わったら行くから。いくつか縫うだけだから、そんなに時間は掛からないわ」

 私は澄ました表情を変えずに応え、グラーフは頷きつつ、にやっと笑った。
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